Application (模型実験論応用)
TV番組で長さ100mの鯉のぼりを紹介していた。実施に先立ち風洞実験をしたところ、鯉のぼりの大きさに関わらず風速によって泳ぐ角度が決まるそうだ。そんな物かと近場の鯉のぼりを注意してみると、確かに真鯉、緋鯉、子供の鯉ともほとんど同じ角度でたなびいている。模型実験の観点からどの鯉も相似形だと考えれば、これは非常に不思議な現象である。
現象を支配するのは重力と慣性力で、フルード数支配の現象であるから、大きさの平方根に比例した風速で同じように泳ぎ、同じ風速では小さな鯉のぼりの方がより水平になるはずである。ところが皆同じ角度で泳ぐ。
鍵はどの鯉のぼりも同じ生地を使っていることである。重力が作用しているのは鯉のぼりであり、局所の風には影響しない。慣性力は風が主であり、鯉のぼりの慣性力はあまり大きくないと想像できる。
重力 Fg=ρg l2T (ρ:密度、g:重力加速度、l:大きさ、T:生地の厚さ)
慣性力 Fi=ρl2v2 (v:速度)
両者の比を取ると、π= ρg l2T / (ρ l2 v2)=gT / v 2
大きな鯉を原型、子鯉を模型として′を付すと、
g T / v 2 = g′T′/ v′2
g=g′、T=T′であるから、v=v′
同じ風速で相似条件を満たす事になる。
もし、鯉のぼりの慣性力も考慮すると、Fi=ρ l T v 2 と鯉のぼりに作用する重力、あるいは空気の慣性力との比を取らねばならないから、計算すると l=T となり、同じ生地での模型実験は不可能となる。
実際のところ100mの鯉のぼりでは、補強のために同じ生地を用いた相似形よりも少し重くなっている。このため小さな鯉のぼりより若干尾が下がるようだ。
車を早く走らせようとすればそれだけ大きな力が要る。風の抵抗、道路から受ける抵抗、空気や機械の摩擦抵抗等に打ち勝たねばならないが、最大の抵抗は空気や車本体の慣性抵抗であろう。他の要因が二次的と証明するにはどうしたら良いだろうか。
主に慣性抵抗と駆動力が釣り合っているなら、どの車でも走行している慣性力と駆動力の比は一定になるはずである。
車の慣性力 Fi=ρl2v2 (ρ:密度、l:長さ、v:車の速度 いずれも代表値)
π = Fi/F =ρM2/3・v2/ F (ρ:密度、M:車の質量、F:車のエンジン出力)
下図は車の重量と最高速度から慣性力を算出し、対応するエンジンの最高出力をプロットしたものである。驚くほど強い相関があり、車の主な抵抗は慣性抵抗であると言える。意外なことにスポーツカーから大型バスまでほとんど変わらない。
中央上部450psは、シャーマン戦車である。図から時速100kmは出せるエンジンである事がわかるが、クローラのフリクションが大きいことと、実用上の制限があるのであろうか。Fomula-1の最高速度は350km/h程度だと思われるが、加速力とダウンフォースを無視すれば、600km/h程度出せる車と言える。
注:車の抵抗は大気を押しのける抵抗であるから空気の慣性力であり、等速運動している車自体の慣性力は一定であるはずであるから、車の慣性抵抗は空気抵抗から導くのが妥当である。しかし、本例のように車の大きさと重量から慣性力を導いても、ほぼ相似則が成立してしまう。車の形状による空気抵抗の差はあまり顕著では無いのかもしれない。(要検証)
最近の車のカタログには最高速度が明記されていない。このため最高速度が判明した車数台と、1960年代の最高速度が明記してあるカタログから三十数台ピックアップした。当時のエンジン出力はグロス表示のため、0.85乗じてネット出力とした。一番右上はFomula-1の車で、重量600kg、エンジン最高出力750ps、最高速度500km/hで計算した。右から2、3番目は大型バス、左の五つは軽自動車である。
エンジンのほぼ最高出力時に最高速度が出ているとした。ギヤ比の関係で最高出力時が最高速度とは限らない。